腰の痛みでお悩みの方は少なくありません。
腰周りの筋肉のバランス異常、椎間板の組織の炎症など、腰の痛みはさまざまな原因によってひきおこされます。
今回は、腰痛をひきおこす代表的な2つの腰の疾患(状態)である「ぎっくり腰」および「椎間板ヘルニア」について症状と原因、治療方法をご紹介します。
目次
■ぎっくり腰
ぎっくり腰とは、腰に急激で強い痛みが起きた状態です。「ぎっくり腰」は通称であり、特定の疾患を指すものではありません。
[症状]
ぎっくり腰になると、主に以下のような症状が現れます。
・身体を動かしたときや咳、くしゃみをしたときに腰に電気が走るような痛み(ギクッ、ビリッとした痛み)を感じる
・腰骨が前後、または、左右にずれているような違和感や腰椎の圧迫感を感じる
・腰やお尻、足のしびれを感じる
・腰や足に力が入らない
・まっすぐ立てない
・仰向けに寝ると腰が痛む
[原因]
以下のようなさまざまな原因により、ぎっくり腰を発症することがあります。
・加齢や運動不足により腰を支える筋肉・腱・靭帯が衰え、組織が損傷する
・スポーツや仕事が原因で腰に負担がかかり、腰周りの筋肉・腰椎・軟骨(椎間板)が損傷する
・がんによる腰椎の病的骨折
・細菌感染による腰椎や椎間板の炎症・化膿
[治療方法]
ぎっくり腰は急激な腰の痛みの通称であり、特定の疾患を指すものではありません。このため、ぎっくり腰に対して「これで絶対に治せる」という治療法はなく、腰の安静と日常生活の継続が主な対処方法となります。
{ぎっくり腰は安静にしている方が良い?動いた方が良い?}
これまで、ぎっくり腰は痛みがなくなるまで安静を続けるのが良いとされていました。しかし、近年、イギリスの医学機関が行った研究では「ぎっくり腰は急性期を除き、できるだけ早い時期に日常生活を再開した方が回復が早い」という臨床結果がでています。
ぎっくり腰で痛みが強く、歩けないなど症状が重い場合は、まずは安静を保つことが大切です。安静後、様子を見て少しでも動けるようであればできるだけ早い時期に日常生活を再開することで回復をうながせる場合があります。
ただし、ぎっくり腰は椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄症、または、がんなどの悪性の疾患が原因の可能性もあります。組織の損傷による疾患や悪性の疾患の場合に無理に日常生活を再開してしまうと腰や全身の症状が悪化するおそれも。
急激な痛みを感じたときは自己判断で放置したり無理に日常生活の再開をせず、早めに整形外科を受診して医師の判断を仰いでください。
■椎間板ヘルニア
椎間板ヘルニアとは、腰椎(腰の骨)の椎骨と椎骨のあいだにあるクッション組織の椎間板が変性して硬くなり、椎間板が椎骨のラインから飛び出して脊髄の神経を圧迫してしまう疾患です。
椎間板ヘルニアは下部腰椎に起こりやすいです。第5腰椎(L5)と仙骨のあいだにある椎間板(L5/S)、および、第4腰椎(L4)と第5腰椎のあいだにある椎間板(L4/L5)にヘルニアが多く見られます。
[症状]
椎間板ヘルニアの代表的な症状には坐骨神経痛があります。坐骨神経痛とは、腰やお尻、太ももやふくらはぎに痛みを感じる症状です。
坐骨神経痛を発症すると腰を曲げたときや物を持ち上げたとき、咳、くしゃみをしたときに腰に電気が走るような痛みを感じることがあります。
{進行しやすい「馬尾型」の椎間板ヘルニア}
椎間板ヘルニアは「神経根型(しんけいこんがた)」と「馬尾型(ばびがた)」の2種類があります。
神経根型は腰椎の脊柱管(せきちゅうかん:脊髄が通う空間)に通う神経が左右に枝分かれした根元部分が圧迫されるタイプです。神経根型では腰痛や足の痛みを感じますが、症状が進行して重篤な状態に進行することはあまりなく、危険度はさほど高くありません(※)。
(※)患者様によって症状が進む場合があります。
馬尾型は腰椎の脊柱管を通る神経の束である馬尾(ばび)が圧迫されるタイプです。馬尾型の椎間板ヘルニアは脊髄の神経の束全体が圧迫されるため、腰痛のほか、下肢の運動麻痺や尿失禁・便失禁、尿閉(尿がでなくなること)、性機能障害など重篤な状態に進行しやすい点が特徴です。
[原因]
椎間板ヘルニアは以下のようなさまざまな原因によってひきおこされます。
・加齢
・重い物を持ち上げる、腰をひねる
・長時間の座り仕事や立ち仕事
・加齢
加齢による椎間板ヘルニアは年齢を重ねることでゼリー状の椎間板の水分が失われ、椎間板が硬く薄くなることが原因でひきおこされます。
・重い物を持ち上げる、腰をひねる
スポーツや仕事で重い物を持ち上げる、腰をひねる動作をくりかえしている方は椎間板ヘルニアを発症しやすいです。
・長時間の座り仕事や立ち仕事
仕事で長時間座り続ける、または、立ち続ける方は重力によって縦方向に椎間板が圧迫されるため、椎間板ヘルニアを発症しやすいです。
[治療方法]
椎間板ヘルニアは病気の進行段階やタイプ(神経根型、馬尾型)に合わせた治療を行います。
・保存療法
①安静
椎間板ヘルニアの初期は安静を保ちます。安静のために腰にコルセットを装着することもあります。
②神経ブロック注射、内服
痛みが激しい場合は局所麻酔やステロイド薬による神経ブロック注射を行い、症状をやわらげます。
非ステロイド性消炎鎮痛薬や筋弛緩剤の内服により痛みを抑えることもあります。
③理学療法(運動療法、物理療法)
安静により痛みがやわらぎ、症状が安定した後は理学療法を進めていきます。
理学療法では腰周りの筋肉を強化するリハビリ(運動療法)や、器具を使って腰を引っ張り椎間板への圧迫をやわらげる牽引(物理療法)などを行います。
・手術
保存療法を行っても痛みが取れない場合や日常生活・スポーツに大きな支障がでる場合は手術を検討します。
椎間板ヘルニアの主な手術には「後方椎間板切除術」「椎間固定術」「経皮的椎間板療法」などがあります(※)。
(※)手術が必要な場合は提携の病院をご紹介させていただきます。
【腰の痛みや違和感があるときは当院までご相談ください】
今回は代表的な腰の疾患(状態)である「ぎっくり腰」、および、「椎間板ヘルニア」についてお話をさせていただきました。
ぎっくり腰や椎間板ヘルニアのほかにも腰の痛みをひきおこす疾患は存在します。
坐骨神経痛をともなう梨状筋症候群や、高齢の方に多い腰部脊柱管狭窄症についてはまた別の機会にブログにてご説明します。
スポーツを行っている成長期の中高生に多い腰椎分離症・腰椎分離すべり症についてはこちらで詳しく解説していますので併せてご参照ください。
腰の痛み、腰の疾患を持つ方は「これくらいなら」「いつものことだから」と症状を放置してしまうケースが見受けられます。しかし、腰の疾患の中には病気の進行によって下肢に麻痺が生じたり、がんによる腰の痛みなど、重篤な状態に陥ってしまうものもあるため、自己判断で腰の痛みを放置するのは良くありません。
腰に違和感や痛みを感じたときは当院までご相談ください。医師による診察を行い、腰の状態、および、患者様のライフスタイルに合わせた治療方法をご提案させていただきます。