スポーツの部活動をしている学生に多い腰の怪我に「腰椎分離症(ようついぶんりしょう)」があります。
腰椎分離症とは、腰骨である腰椎の椎弓部に起こる疲労骨折および椎弓の分離です。小学校高学年~大学進学時の成長期のスポーツ部活生に起きることが多く、日本人の成人の約6%が腰椎分離症を患っています。
今回は腰椎分離症が起きる原因と症状、治療方法についてお話しします。
目次
腰椎分離症が起きる原因
◎背中をそらす動作やジャンプからの着地の衝撃で発症することが多い
人間の身体を支える脊柱(背骨)は首の部分の頚椎、背中の部分の胸椎、腰の部分の腰椎、仙骨、尾骨で構成されています。脊柱は前方(お腹側)に支柱となる椎体があり、後方(背中側)に椎弓(ついきゅう)と呼ばれるリング状の骨があります。
腰椎の後ろにあるリング状の椎弓は斜め後方が細く、弱い構造をしています。その弱い部分にスポーツ時の背中をそらす動作やジャンプ時の着地で衝撃がかかると、椎弓にひびが入ることがあります。一回の動作で椎弓にひびが入ることは少なく、ほとんどは何度も繰り返して動作を行うことによる疲労骨折です。腰椎分離症は椎弓のひびから始まります。
そして、スポーツ時の動作で繰り返し椎弓に衝撃がかかることでひびの部分が完全に折れてしまい、折れた椎弓の先端が分離します。これが、腰椎分離症が起きる主な原因です。
◎第5腰椎が分離しやすい
腰椎分離症で折れる箇所は仙骨の上にある第5腰椎(L5)が多く、全体の80%を占めています。次いで、第4腰椎(L4)にも起こります。
椎弓はリング状のため、折れるときはリングの後ろ部分の左右両方またはどちらか片方が折れます。腰椎分離症の70~80%は左右両方が折れる両側性です。残りの20~30%は片側のみが折れる片側性となります。
◎腰椎分離症が起きやすい年齢
腰椎分離症は椎弓にひびが入る疲労骨折から始まり、年月を経て、椎弓が完全に折れて分離する経過をたどります。
スポーツや部活動を始める小学校高学年~中学生の時期に腰骨に負担がかかり、椎弓の疲労骨折(ひび)を発症します。そして、部活動などでスポーツを続けた場合、高校生~大学進学時にひびの部分が完全に折れ、椎弓が分離するケースが多いです。
◎腰椎分離症が起きやすい性別・スポーツ
腰椎分離症は男女比で2:1と男子に起こりやすいです。
スポーツの種類は野球、サッカー、ラグビー、バスケットボール、ハンドボール、柔道、体操、ウェイトリフティングなど、頻繁に身体をかがめたり、腰を回旋させる動作(左右に回す、ひねる)をする競技に多く見られます。
腰椎分離症の症状
◎初期段階では自覚症状がないことも
腰椎分離症は椎弓にひびが入る疲労骨折から始まります。初期段階では症状に気づかないことが多いですが、症状がでることもあります。腰椎分離症で起きる主な症状は腰痛です。
スポーツで腰を反らしたりひねったりしたときに腰痛を感じることが多く、腰に電気が走るような痛みがでます。スポーツ以外にも長時間、立ち続ける・座り続ける・中腰の姿勢を取る、などでも痛みがでやすいです。
疲労骨折から症状が進むと、やがて完全に骨が折れて椎弓が分離します。椎弓の分離によって椎骨の安定が失われ、腰椎が前方にずれると脊髄の神経が圧迫されて足のしびれがでてきます。これを「腰椎分離すべり症(腰椎すべり症)」と呼びます。
椎弓が分離する前の疲労骨折の段階では足のしびれがでることはあまりありません。腰椎分離症になると腰痛や足のしびれのほか、腰の筋肉がつっぱる感覚があったり、お尻から太ももの裏側にかけて広い範囲が痛むこともあります。
{腰椎分離すべり症について}
腰椎分離すべり症とは、椎弓が分離して安定を失った腰椎(椎骨)が前方(お腹側)にずれてしまう症状です。
腰椎のすべり症は2種類あります。スポーツなどの衝撃により椎弓が分離して椎骨が前方にずれる症状を「腰椎分離すべり症」と呼びます。スポーツ時の衝撃ではなく、加齢が原因で腰椎の周りの椎間板などの組織が変性し、安定が失われたことによって起きる症状を「腰椎変性すべり症」と呼びます。スポーツをしている青少年に多いのは腰椎分離すべり症です。
腰椎分離症・腰椎分離すべり症の治療方法
腰椎分離症、および、進行した状態の腰椎分離すべり症は症状の進行段階によって治療方法が異なります。治療方法は段階ごとに「固定による安静」「ストレッチや筋力強化」「分離部を固定する手術」があり、症状に合った治療を進めていきます。治療では腰の痛みを鎮めるため、電気治療器や低出力パルス超音波による物理療法も合わせて行います。
①初期段階:「固定による安静」
腰椎分離症の初期段階は椎弓にひびが入る疲労骨折です。初期段階の治療では、ひびが入った椎弓をくっつけるためにコルセットを装着します。
コルセットを装着するとともに、腰椎の状態に応じてスポーツを3ヶ月~12ヶ月間中止して安静します(※)。きちんと安静できれば、腰椎がしっかりとくっつく確率が高まります。
(※)症状や腰椎の状態によって安静期間が異なります。
②リハビリ:「ストレッチや筋力強化」
3ヶ月間~12ヶ月間前後の安静を経て、腰椎が安定したらストレッチや筋力強化によるリハビリを行います。リハビリをする理由は腰まわりの筋肉が硬くなったり筋力が落ちるのを防ぐとともに、柔軟性&筋力アップにより腰椎を安定するのが目的です。
リハビリでは、院内で理学療法士がストレッチや筋力強化のための腹筋・背筋のやり方を教えます。腹筋・背筋のトレーニングは腰に負担がかからないよう、軽い運動を行います。
③手術:「分離部を固定する手術」
腰椎分離症で椎弓が完全に折れて分離した場合は、生活に大きな支障がなければ手術は行いません。分離したままの状態になりますが、以降は痛みを管理する対処療法が主な治療となります。
椎弓が分離しており、または、症状が進行して腰椎分離すべり症になり、痛みが強く生活に支障がでる場合やスポーツへの復帰を目指す場合は分離した椎弓を固定する手術を行います。手術は偽関節ができていなければ低侵襲の手術が可能です(切開部位および手術範囲が比較的小さい手術)。偽関節が形成されているケースでは手術範囲が広くなります。
{腰椎分離症における偽関節}
腰椎分離症で完全に椎弓が分離すると、骨が離れたままの状態になる「偽関節(ぎかんせつ)」が形成されることがあります。本来、関節がない場所に偽の関節のようなものができるため、偽関節と呼ばれます。
偽関節部分で分離した骨の両端には骨棘(こっきょく)という骨のトゲができるケースが多いです。骨棘ができると骨のトゲが脊髄の神経を刺激して腰や足に痛みがでたり、足がしびれることがあります。
偽関節になってしまった腰椎は自然にくっつくことはありません。骨をくっつけるためには手術が必要になります。偽関節になった腰椎分離症は腰椎が前方にずれる腰椎分離すべり症に移行することが多いです。
【腰の痛み・違和感があるときはできるだけ早めの受診を】
腰椎分離症は部活動に打ち込む小学校高学年~大学生に多い症状の一つです。
初期段階では自覚症状がないことも多く、「単なる腰の疲れ」「腰の筋肉痛」として見逃されてしまうこともあります。
しかし、「症状がないから」と腰椎分離症を治療せずに格闘技やスポーツを続けているとやがて椎弓が折れ、完全に分離する可能性が高くなります。椎弓が分離した場合は自然に骨がくっつくことは望めません。
椎弓が分離したケースでは症状が進んで腰椎分離すべり症に移行することが多いです。腰椎分離すべり症になると前方にずれた椎骨によって脊髄の神経が圧迫され、腰痛がひどくなったり足のしびれがでてきます。腰椎分離すべり症を発症すると格闘技やスポーツに支障がでるほか、腰痛や足のしびれにより日常生活にも支障をきたす場合があります。
「腰を反らしたりひねると腰が痛む」
「運動した後、腰が痛む」
「腰に違和感がある」
「部活が休みの日は腰痛が消え、部活のときは腰痛がでる」
上記のような症状がある方は腰椎分離症、または、腰椎分離すべり症の可能性があります。
腰に痛みや違和感があるときはできるだけ早めに整形外科で診察を受けましょう。早期に受診することで椎弓が完全に分離するのを防ぐことができ、腰椎の安定につながります。