皆様は「健康寿命」という言葉を目に・耳にされたことはありますでしょうか?
健康寿命とは、食事や排せつなど、生きていくために欠かせない身の回りのことを健康上の制限なく、ご自身の力で行えるあいだの年齢(寿命)です。
健康寿命に対し、寿命(生命寿命)は生命が尽きるまでの年齢を指します。
{健康寿命を保つために気をつけたい、足の機能の維持&骨粗しょう症について}
健康寿命を保つには、まずは、歩くために欠かせない足の機能(足の骨の丈夫さ&足の筋肉)を維持することが大切です。
足の機能を維持する上で、特に気をつけたい注意点の一つに骨粗しょう症による「足の骨折」があります。
骨粗しょう症とは骨密度が低下して骨がスカスカになる病気です。特に65歳以上のご高齢の女性は骨粗しょう症を発症しやすい傾向が見られます(※)。
人は年齢を重ねると、どなたも骨密度が低下します。性別を問わず、65歳以上のご高齢の方は男性も骨粗しょう症に注意が必要です。
(※)公益財団法人 骨粗鬆症財団「骨粗鬆症の予防と
治療ガイドライン」(2015年版)より引用。
骨粗しょう症になって足を骨折すると、寝たきりになりやすいです。寝たきりで介護が必要になるとご自身で行えることが減って健康寿命が短くなり、生命寿命も縮みやすくなります。
今回は、骨粗しょう症で気をつけたい「足の骨折」についてご説明します。
目次
■寝たきりをひき起こす可能性がある3大原因
足の骨折(歩けなくなる)と寝たきりは密接に関係しています。
超高齢化社会に突入した日本。現在、日本人の平均寿命は84.3歳(※)で世界1位ですが、寝たきりで要介護になると健康寿命は短くなります。
(※)WHO「World health statistics」(2023)より引用。
◎1位「脳卒中」2位「認知症」3位「高齢による衰弱(老衰)」
高齢者の方の寝たきりをひき起こす可能性がある、大きな原因は以下の3つです。
1位:脳卒中
2位:認知症
3位:高齢による衰弱(老衰)
次いで、4位に今回ご紹介する「骨折」、5位に腰や膝などの関節に起きる「関節疾患」が続きます(※)。
(※)厚生労働省「国民生活基礎調査Ⅳ 介
護の状況」(平成25年度版)より引用。
寝たきりをひき起こす可能性がある3大原因に次ぎ、4位に骨折がランクイン。上記のデータからも見て取れるように、いかに骨折が寝たきりをひき起こしやすい危険な因子であるかをご理解いただけるかと思います。
■骨粗しょう症の方が太ももの骨を折ると寝たきりになる確率&死亡率が高まります
◎骨粗しょう症の方が太ももの骨を折ると寝たきりになりやすいです
2足歩行である人間が歩く上で、足の骨、とりわけ、太ももの骨と足の筋肉は欠かせません。
上記のデータが示すとおり、骨折は寝たきりをひき起こす大きな原因の一つ(第4位)です。
特に、骨粗しょう症の方が太ももの骨を折ると、以下の理由により寝たきりになる確率が高まります。
{骨粗しょう症の方が太もものの骨を折ると、寝たきりになりやすい理由}
骨粗しょう症の方は骨がスカスカでもろく、骨折をした場合に骨がくっつきにくいです。また、寝たきりで身体を動かさなくなることで、骨への刺激が不足してさらに骨密度が低下しやすくなります(骨のスカスカがさらに進みやすくなる)。足の骨折による運動不足で筋力も衰え、筋肉量が減っていきます。
上記の理由から、骨粗しょう症の方が太ももの骨を折ると、骨密度の低下と筋肉の減少によって歩行が困難になり、寝たきりになるケースが少なくありません。
{太ももの骨を折ると寝たきりになりやすい では すねの骨はどうなの?}
すねの骨を折った場合は、折れた方の足に力が入らず、歩けなくor歩きにくくなります。ただし、すねの骨は股関節から離れているため、太ももの骨折と比べて、すねの骨折は歩行への悪影響の度合いが多少、軽減されます。
上記の理由から、太ももの骨折と比べて、すねの骨折は歩行への回復につなげやすいです(※)。
(※)患者様や骨折の状態により、歩行
への回復のしやすさが異なります。
気をつけていただきたいのは、高齢者の方、および、骨粗しょう症の方における太もも・すねの骨折はどちらも、重大なケガである、という点です、第一に、太ももの骨を折らないように気をつけると共に、すね、そして、膝の関節も骨折(特に、脛骨プラトー骨折(※))しないように注意しなければなりません。
(※)脛骨プラトー骨折・・・脛骨(けいこつ:
すねの骨)の上端の関節面の骨折。高齢者の
方や骨粗しょう症の方に起こりやすい。
◎高齢者の方が太ももの骨を折った場合の1年以内の死亡率は10~30%
65歳以上の高齢者の方が太ももの骨を折った場合、1年以内の死亡率は10~30%というデータがあります(※)。
(※)日本整形外科学科・日本骨折治癒学会「大腿骨頸部/転子
部骨折診療ガイドライン(改定第3版)」(2021)より引用。
また、別の調査では65歳以上の高齢者の方が太ももの骨を折った場合の5年生存率は63.5%というデータがあります(※)。
(※)金丸由美子・西村誠介ほか「65歳以上の大腿骨近位部骨折
手術症例の生命予後および予後因子の検討」(2010)より引用。
つまり、65歳以上の高齢者の方で太ももの骨を折った場合、10人に1~3人の方は1年以内に亡くなり、10人に3~4人の方は5年以内に亡くなっているのです。
これほど高い死亡率である理由は、主に以下の2つ因子が関係しています。
・足の骨折で寝たきりになる→全身の健康が悪化する
・骨折の手術におけるリスク(後述)
くり返しになりますが、上記のデータが示すように、足、特に太ももの骨折は寝たきりになりやすいことに加えて、生命寿命そのものにも大きな悪影響をおよぼします。
{太ももの骨折は手術が必要 高齢者の手術はさらにリスクが増大}
太ももは大きな骨であり、骨折した場合には原則として手術が必要です。
骨粗しょう症の方を含め、高齢者の方は免疫力や体力が低下しているケースが多く見られます。
骨粗しょう症の方や高齢者の方が太ももを骨折した場合、手術においては以下のリスクが増えやすくなります。
・細菌感染(高齢による免疫力の低下)
・骨がくっつかない(高齢&骨粗しょう症による骨代謝機能の低下)
・骨が壊死する(高齢&骨粗しょう症による血流の低下(骨へ栄養が送られにくくなる))
高齢者の方に上記のトラブルが起きた場合、細菌感染による敗血症の発症など、症状の進行度によっては命に関わる重篤な事態に陥ってしまうことも。
【整形外科での適切な治療&リハビリと定期的な運動で骨と筋肉の衰えを防ぎましょう】
◎高齢者の方、骨粗しょう症の方は「転倒」しないように注意
太ももの骨折をはじめとして、足の骨折と寝たきり、そして、生存率(死亡率)には深い関係があります。高齢者の方、および、骨がもろく折れやすい骨粗しょう症の方は足を骨折しないために転倒(転ぶこと)に注意しなければなりません。
転倒に注意すると共に、できるかぎり人の手を借りず、年齢を重ねても健康寿命を保ち続けるためには、まずは、ご自身の足(骨と筋肉)を使って日常の動作や運動を行い、しっかり歩ける身体を維持することが重要です。
①整形外科での治療・リハビリで関節の疾患の症状の進行を抑える
腰・膝などの関節の疾患があり、思う様に身体を動かせない・運動できない場合は、まずは、整形外科での受診をおすすめします。
整形外科で適切な治療を受け、リハビリ(運動療法・物理療法)を行うことで、腰・膝をはじめとする関節の疾患の症状の進行を抑え、身体の状態を維持する(または改善する)効果を期待できます。
特に65歳以上のご高齢の方は、普段から整形外科で定期的に検査を受けておくことが重要です。定期検診により、関節に異常や疾患が起きた際の早期発見・早期治療につながります。
②定期的な運動で骨密度を維持
整形外科での治療&リハビリに加え、歩行を中心とする運動を定期的に行うことで足の筋力と骨密度を維持しやすくなります。
—–
歩けなくなり、寝たきりにならないようにするために、整形外科での適切な治療&リハビリと定期的な運動で骨と筋肉の衰えを防ぎましょう。