胃をむしばみ、全身に転移することもある怖い病気、胃がん。
胃がんは、がんの中でも死亡率が高いです。2022年に調査した日本人のがん死亡率では、男性のがんの3位、女性のがんの5位に胃がんが入っています(※)。
(※)国立がん研究センターがん情報サービス「がん統計」
(厚生労働省人口動態統計)(2022年)より引用。
胃がんは、さまざまな原因によってひき起こされます。
原因はさまざまですが、大きな発症要因とされているのが、胃に感染するピロリ菌です。ピロリ菌に感染している方は、そうでない方と比べて、胃がんを発症しやすいとされています。
今回は、胃がんの発症リスクを抑えるための「ピロリ菌除菌」のご案内です。
目次
■ピロリ菌とは
◎水道以外の水を摂取していた方は、ピロリ菌に感染しやすいかもしれません
ピロリ菌とは、胃の中に感染する可能性がある細菌です。正式な呼び名を「ヘリコバクター・ピロリ菌」と呼びます。
ピロリ菌は、感染によって胃の中に棲み着くと考えられています。感染して、胃にピロリ菌を保持している方もいれば、感染せずに胃にピロリ菌がいない方も。
ピロリ菌は、現在のように上下水道が発展していなかった時代に感染した方が多いと見られています。
具体的な感染経路としては、井戸水や沢の水などの、いわゆる「環境水」です。井戸水や沢の水を生活用水として飲んだり、料理などに使っていた時代を生きてきた方は、ピロリ菌に感染している確率が高いとされています(※)。
(※)現時点での推測です。環境水とピロリ菌の
関係については、研究段階となっています。
◎環境水のほか、口移し、不衛生な環境が原因でピロリ菌に感染する可能性も
環境水に加え、以下のような原因でピロリ菌に感染する可能性も。
[ピロリ菌に感染する可能性があるとされている主な原因・経路]
・環境水(井戸水や沢の水など)
・口移し(ピロリ菌保持者とのキス、回し食べ・回し飲みなど)
・不衛生な環境(ピロリ菌保持者の唾液や糞便が十分に洗浄・清掃されていない環境)
◎ピロリ菌は5歳ごろまでの感染予防が大切
ピロリ菌の経口感染は、主に、免疫機能が未成熟な5歳以下の子どもにうつりやすいとされています。
親や周りの大人からの、5歳以下の小さな子どもへの口移し・キス・回し食べ・回し飲みには注意が必要です。
ピロリ菌保持者の方が5歳以下の小さな子どもへ上記を行うと、子どもにピロリ菌が感染するおそれがあります。
ピロリ菌は、5歳ごろまでの感染予防が大切です。
5歳ごろを過ぎると、免疫機能の発達により、ピロリ菌の経口感染率(口からの感染)は非常に低くなると考えられています。
◎ピロリ菌はさまざまな胃・消化器系の病気を起こす原因と見られています
ピロリ菌に感染すると、胃の粘膜が炎症を起こしやすくなります。
ピロリ菌は胃に巣くう細菌です。胃酸で死なないため、一度、ピロリ菌に感染すると、胃に巣くったピロリ菌により、慢性的に胃の炎症が起きやすくなります。
ピロリ菌による慢性的な胃の炎症は、胃潰瘍・十二指腸潰瘍・胃がんなどの胃・消化器系の病気をひき起こすことが、研究によって明らかになっています。
{ピロリ菌は胃がんをひき起こす確実な発症要因の一つに認定されています}
1994年、WHO(世界保健機構)の下部組織であるIARC(国際がん研究機関)は、ピロリ菌を「胃がんの確実な発病要因」の一つに認定しました(※1)。
(※1)IARC「Schistosomes, Liver Flukes and Heli
cobacter pylori」(1994)より引用。
WHOが「がんの確実な発病要因」に認定しているものは、ほかに、タバコやアスベストなどが代表的です。これらを見ても、ピロリ菌がいかに胃がんの発症に大きく関係しているかが見て取れます。
胃がんの確実な発症要因の一つに認定されている、ピロリ菌。
研究・調査により、日本人の胃がんの75~90%は、ピロリ菌の感染が胃がんの発症要因と推測されています(※2)。
(※2)Japan Public Health Center Study Group「Effect
of Helicobacter pylori infection combined with CagA a
nd pepsinogen status on gastric cancer development
among Japanese men and women: anested cas
e-control study」(2006)より引用。
{ピロリ菌以外の、胃がんの発症要因は?}
胃がんの発症要因としては、ピロリ菌(確実な発症要因の一つ)のほか、以下のような要素が挙げられます。
[胃がんの発症要因とされている主な要素]
・ピロリ菌
・ストレス
・暴飲暴食(塩分が高い飲食物の日常的な摂取、野菜不足など)
・長期間の鎮痛剤の服用
■ピロリ菌除菌の大切さ
◎胃酸で死なないため、除菌しない限り、胃の中にピロリ菌が棲み続けます
胃がんなどの胃・消化器系の病気をひき起こす原因の一つ、ピロリ菌。
ピロリ菌は、胃酸では死にません。胃酸で死なないため、一度感染すると、除菌しない限り、一生、胃の中にピロリ菌が棲み続けます。
胃酸で死なない、ピロリ菌。胃からピロリ菌を取り除くためには、薬による除菌が必要です。
◎1日2回、7日間の飲み薬の服用でピロリ菌を除菌していきます
ピロリ菌除菌とは、飲み薬を用い、胃の中に巣くうピロリ菌を除菌する方法です。
1日2回の服薬を7日間続けることで、ピロリ菌の除菌を図ります。
[ピロリ菌除菌で用いる飲み薬]
①胃酸の分泌を抑える薬
②抗菌薬
服薬後、8週間が経過したタイミングで再度、検査を行い、ピロリ菌が除菌されているかを確認します。
{状況により、ピロリ菌除菌を2回行う場合があります}
ピロリ菌除菌の成功率は90%前後です。多くのケースで、1回の除菌でピロリ菌の除菌に成功するとされています。
1回でピロリ菌が除去できなかったときは、状況により、2度目のピロリ菌除菌を行う場合があります。2回のピロリ菌除菌を行った場合、除菌成功率は約97%です(※1)。
(※1)Kazunari Murakami,et al「Vonoprazan, a novel
potassium-competitive acid blocker, as a component
of first-line and second-line triple therapy for Heli
cobacter pylori eradication: a phase III, randomi
sed, double-blind study」(2016)より引用。
ほとんどのケースで除菌に成功しますが、2回の除菌でピロリ菌を除去できなかった場合は、3次除菌を検討します(※2)。
(※2)大学病院など、専門の医療機関での
3次除菌が必要になることがあります。
◎ピロリ菌除菌が必要とされる方
以下に当てはまる方は、対応可能な医療機関にて診察を受け、ピロリ菌を除菌することをおすすめします。
・胃内視鏡検査や各種の検査でピロリ菌の感染が確認された方
◎ピロリ菌除菌の注意点(副作用)
・飲み薬の作用により、除菌中、一時的に下痢・味覚異常・発疹などの症状がでる場合があります
・発熱や腹痛を伴う下痢が続いている場合、下痢に粘膜・血液が見られる場合は担当の医師までご連絡の上、診察を受けてください
・二次除菌を行う場合は、除菌期間中の飲酒は控えてください(一次除菌中の飲酒はOKです)
・以下に当てはまる方は、ピロリ菌除菌を行う前に医師に申し出てください
- 薬を飲み、アレルギー症状を起こしたことがある
- 抗菌薬や風邪薬で副作用が起きたことがある
【胃がんの発症リスクを抑えるために、まずは、胃内視鏡検査を受けることをおすすめします】
当院では、消化器内科の専門医による診療を行っています。消化器内科専門医の診療は、毎週木曜の午前中(9時~12時)です。
院内には、口から挿入する通常の胃カメラに加え、苦痛が少ない、鼻から入れる胃内視鏡(経鼻内視鏡)を備えています。鼻から胃内視鏡を入れることで、胃カメラが苦手な方・嘔吐反射がある方も、ストレスを軽減した状態で検査をお受けいただけます。
胃内視鏡検査はピロリ菌の感染を確認する、有効な検査法の一つです。抗体検査など、胃の中を確認しない検査法では、ピロリ菌の感染が判別しにくいことも。
胃内視鏡検査を受けることで、ピロリ菌の感染の有無を含め、胃の状態を詳細に確認できます。
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今回は、「ピロリ菌除菌」のご紹介をさせていただきました。
発見が遅れると命を落とすこともある、胃がん。
中高年の方に加え、30代以下の若い方も、胃がんを発症するケースも。
胃がんの発症リスクを抑えるために、まずは、専用の設備が整った医療機関にて、胃内視鏡検査を受けることをおすすめします。